現在なくてはならない道具のひとつとなっている携帯電話であるが,この中にも適応信号処理の技術が用いられている.
携帯電話で適応フィルタが用いられる用途としては以下の3つがあげられる.
ここではこれらについて簡単に解説し,自身の研究と関連する「音響エコーキャンセラ」についてより詳しく述べる.
現在広く用いられている音声コーデックはCELP方式に基づくものが多い.この方式は音声を発生させるのに,音声の駆動源と声道とにわけてモデル化する.このうち,適応信号処理は声道モデルの推定や合成に活用される.
携帯電話に適用されるノイズサプレサはマイクロホンの出力送話信号から雑音の特性を推定することで背景雑音の抑制を行う.現在では周波数領域でのノイズサプレサが広く用いられるようになり,より精度の高い抑制が可能になっている.
音響エコーキャンセラは携帯電話のスピーカ・マイクロホン間の音響結合により発生するエコーを除去するために用いられる.
音響エコーキャンセラでの適応対象となるスピーカ・マイクロホン間の反響路の特性は共振成分によって無限の長さのインパルス応答を含むARMAモデルとなるが,有限長のインパルス応答で近似してモデル化するのが一般的である.しかし,無限長を近似するのであるからそのインパルス応答長は長くなることが容易に想定できるだろう.
さらに携帯電話特有の問題として,スピーカが小型であることに起因して非線型エコーが生じるということが知られており,よりインパルス応答長は長くするボルテラ級数を用いるなどして対処しなければならない.このインパルス応答長の長さが原因となって適応処理のアルゴリズムの計算量を膨大なものとしてしまう.
また,用いられる信号が音声であることから,比較的低計算量でよい性能を得ることができるとされているNLMSのようなアルゴリズムでは収束速度が著しく悪くなってしまう.
本研究室の研究成果として,こういった多くの問題が存在する非線型の音響エコーキャンセラの問題に対して,線型な環境で良い性能を発揮することが知られていた並列劣勾配射影法[Yamada, et al'02]を拡張し,計算量と収束速度,さらにノイズに対する耐性をもったアルゴリズムを考案している.提案手法の詳細については以下の論文を御覧いただきたい.
●Isao YAMADA, Takuya OKADA and Kohichi SAKANIWA,
"Note on Robust Adaptive Volterra Filtering Based on Parallel Subgradient Projection Techniques,"
電子情報通信学会誌 Vol.E86-A No.8 pp.2065-2068 2003/8
http://search.ieice.org/2003/files/e000a08.htm#e86-a,8,2065
SUMMARY: A robust adaptive filtering algorithm was established recently (I. Yamada, K. Slavakis, K. Yamada 2002) based on the interactive use of statistical noise information and the ideas developed originally for efficient algorithmic solutions to the convex feasibility problems. The algorithm is computationally efficient and robust to noise because it requires only an iterative parallel projection onto a series of closed half spaces highly expected to contain the unknown system to be identified and is free from the computational load of solving a system of linear equations. In this letter, we show the potential applicability of the adaptive algorithm to the identification problem for the second order Volterra systems. The numerical examples demonstrate that a straightforward application of the algorithm to the problem soundly realizes fast and stable convergence for highly colored excited speech like input signals in possibly noisy environments.
[1] 南重信, 山崎彰一郎:"適応信号処理の基礎と応用 [II] ---適応信号処理のディジタル携帯電話への応用---," 電子情報通信学会誌, Vol.86, No.9, pp.709-714, 2003 9月号
2004年2月17日 岡田 拓也<takuya@comm.ss.titech.ac.jp>